index <  日誌 < K夫人:目次 42、「忘年会の後」



〜2 鏡(カガミ)。

天使が地上に降りて来て、鏡(カガミ)に映った自分の姿に戸惑い、当惑し、うろたえているのである。信じられないのである。この世にカワイイというものがあるとすれば、この時の彼女ほどカワイイものが他にあっただろうか。カワイイとは、こういうことなのだ。

それはテレビや小説の見世物の可愛さではなく、彼女だけが持つ本物の可愛さだったのである。受け売りや、見てくれや、ナリスマシでなくて、それが本当の彼女の姿だったのである。彼女にはそうした経験がなく、またそうした「かけひき」の世界を知らないのである。そうして、心の中があらわに映し出されて、それが現実の姿となって現れたのだ。僕は「あちら」の世界を見ていたのだ。見える現実を素通りして彼女の精神の世界を見ていたのだ。

僕は、彼女の心の中を見てしまったように思えたのである。
自分が生きている現実の空間が、ゆれて、ゆがんで、きしんで、引き裂かれて、その狭間(はざま)から何かが見えてくる。彼女の心の中をかいま見た思いだった。どこかで魂(たましい)に触れた思いだった。直接、心の中を見てしまったように思えたのである。僕のタマシイは現実を離れて直接、彼女を見ている。あるいは彼女の中にいて、彼女に触れている。まばゆい光の中である。生きている僕の肉体や現実といったものは、もはやどうでもよいもののように思えたのである。

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