index < 日誌 < K夫人:目次。< 51、「始まり」
~3 風景。
確かに彼女もまたそうであったように思えてならないのである。何かを求め、願いながらも、その何かが分からずにずっと待ち続けていたのである。ワケもわからず、しかしまた自分でもそれが分からないからこそ、待ち続けるしかなかったのである。僕にはそう思えてならなったのである。 事務所のすみの方で、いつもみんなと反対方向を向いている彼女、それが僕にはとっても寂し気でいとおしく、可愛らしく見えてくるのである。まるで今にも壊れて現実から消え去ってしまいそうに。そうしたことが僕にはたまらず、つらく、苦しく、心臓が圧迫されてゆくのである。だからまた、僕にとって見れば、何としても、どうしても、どんなことがあっても、守っていかなければならない僕自身の「良心」のように思えてならなかったのである。 なにかとっても大切なものが失われてゆく。壊れて消えてゆく。僕にはそう思えてならなかった。自分が生きている理由や、つながりやキズナといったものが、どこかで途切れて薄れていって気づかないうちに消えてなくなってしまう。途切れて行って、もはや取り戻せなくなる、そんな気がしてならなかったのである。 自分にとって何よりも一番大切なものが、もはや二度と届かない所へ、僕たちを捨てて離れて行ってしまう、そんな気がしてならなかったのである。僕は彼女の後ろ姿にそうしたことを見ていたのである。しかし、それはまた僕自身の心の中の風景でもあったのである。 僕や僕たち、そして彼女が忘れられてゆく。 だれにも気づかれないまま失われ消えてゆく。 どこか遠いところへ、もはや二度と帰れないところへ。 ・・・こんなことあってよいものか。 戻る。 続く。 |