index <  日誌 < K夫人:目次 57、「正直」



〜2 純真。

要は、彼女がいくら純真に見えたとしても、それは大きいか小さいかという「程度」の問題なのであって、純真などというのは現実にはないのである。しかし僕にはたしかに純真に、限りなく純粋で永遠のもののように見えたのである。というのは、そうした瞬間や場面といったものは誰にもあるのであって、たまたま僕には、彼女のそうした純粋さというのが際立ってよく見えた、ということなのである。

つまり、僕にとって、彼女(K夫人)というのは非常に相性(あいしょう)が良かったのである。僕には彼女の素晴らしさや魅力といったものが特によく見える、という感覚の持ち主だったということである。あるいは、それが僕にもっとも求められ、願い、欲していたものだったのかも知れない。

あるいはまた、たまたま、そうした「偶然」というのが重なったというだけなのかも知れない。そしてその舞台となったのが、この職場だったのである。それは、この職場でしかそれは起こり得なったのである。優しく正直な、あきらめと悟りを開いた年金オジンの同僚たちと、純真(マヌケ)で世間知らずの彼女なしには、それは起こり得なかったのである。

だから僕は、彼女の前では正直になれたし、正直になるしかなかった。彼女の心というのがよく見えたし、また、透き通っていてまともに、直(じか)に見ることも出来たし、真に迫ってもきたので、そうするしかなかったのである。僕もまた、彼女に対して正直で純真な気持ちで接して行くしかなかったのである。

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