「暗示」

〜2、いざない。


物かげや暗がり、人ごみの中、壁と壁の間、形や色のコントラストの途切れて薄れた境界、それとか霧や雨のぼやけたマダラ模様の中で、影が見えかくれする。境界の裂け目の、暗がりの奥から僕をじっと見つめていて、そして、いざなっているのである。

何か僕には抵抗不可能な意志の力が働いていて、絶対の強制力がぼくをひっぱってゆくのである。しかし。「ひっぱられる」というのは誤解である。ぼくはそれ以前に、それをのぞみ、無意識のうちにそれを期待し、求めていたからである。

だからこそ、なにも無いところに何かの気配を感じたり、予感したり、それと多少とも似たものを見ただけで、それが見えたと思えたのである。

だからまた、それが見えてくる場面、場所といったものは、常に何かの境い目、裂け目といった、連続した正常なものが中断した場面なのである。つまり、日常と非日常、明と暗、連続と不連続、明瞭と不明瞭、そうした現実世界の境(さか)い目、現実の引き裂かれた空間の裂け目として見えてくるのである。

もどる。             つづく。