「異界」
訳もわからないのに、イラついたり、落ち込んだり、うれしくなってきたり・・・。 しかし本当に、その理由が自分でもよくわからないのに、憂鬱になってきたり、楽しくなって来たりする。そうした移りゆく心のありさまのことなのである。 それは自分のことでありながら、自分でもどうにもならないまま自分を支配しているのである。このような心の動きや情感といったものは、もしかすると、それ以前の感性や感受性そのものなのかも知れない。「心」以前の肉体の感じ方なのである。そうしたことが自分自身を支配しているのである。 自分と自分以外の他人を区別し仕切っている、自分自身の感覚といったもの、五感といったものが、それぞれがどこかで繋(つな)がっていて、それが自分自身と対立いる、そう思えてくるのである。感覚が、その主人たる私自身に異議を申し立てている。 何かを求め、何かを訴え、そしてまた何かをいだいている。自分自身が知らない何かを抱いている、そう思えてくるのである。それは私自身でありながら、私自身ではない世界なのである。 自分が分裂していて、その中で自分自身を見つめ続けているのである。そうするしかないのである。どこか遠い、はてしなく遠いところから、僕を呼んでいざなっているように思えてくるのである。 それがいったい何のか、自分でも分からないもどかしさでイラついたり、あるいはまた、まさしくそれが僕を悲しませたり喜ばせたりしている。それは、自分の中にある未知の世界、異界なのである。 |