「倫理」

〜1、道徳。


それが善いことか悪いことか、というのはどうでもよいことであって、問題にもならない。大事なことは、そうやってみんなが生きているのであって、そうやって社会が成り立っていて、維持され秩序が保たれているということなのである。

だから、これに疑いを抱いたり、これに反する考えや、それどころか、そうした感情や感じ方を持つということ自体が、最もしてはいけないこと、あってはならないこと、ないし、最も危険な存在と見なされるのである。

これが、社会にとっての唯一の正義なのであって、それが善いとか悪いとかというのは、どうでもよいことなのである。世の中のシキタリや習わし、常識といったものになんら疑いをいだかないこと、これが、その時代の社会にとって唯一の安定と存続の保障なのである。

それは、目には見えない境界線、だれであってもけっして超えてはならない一線なのである。自分がその社会の中にとどまるのか、それともそこから出るのかという超えてはならない限界線なのである。これがオキテとか、暗黙の了解、あるいは人の道とか、ケジメとか、道徳と呼ばれているものなのである。法律もまたそうである。

だからみんなが、そして、目上(めうえ)の偉い人が、黒でも白といえば、白となるのであり、少なくても多いと言えば、それが多いということになるのである。そして、それに疑惑をいだいたり、他の考えを持ち込むことは許されないのである。それは奇人・変人・異国人でしかないのである。それは、この社会の外の人間なのである。世の中で必要のない人間どころか、危険な存在として排除されるのである。

目次へ             つづく。