「豊芦原の瑞穂の国」
〜1、島国
古代の文献に出てくる「豊芦原の瑞穂の国」とは、芦が豊かに覆い茂る稲穂の国という意味で。要するに米がよく取れる豊かな湿地帯ということである。つまり、温暖で雨が多く、湿気も多いのである。 海に囲まれた島国で、さらに大陸と海洋の狭間、熱帯と寒帯の間で、そしてさらに、地下でも太平洋プレートの出入り口となっている。そうやって、四季を通じて年中、揉まれ続けているのである。 年間降水量は、世界的にみると非常に多い。豊かな水と日光は、植物連鎖の始点としての植物を繁栄させる。従って、日本列島には多種多様な植物と動物が生息している。大型の動物はいないのであるが、その数と種類において非常に豊富なのである。これは植物の繁殖とも直接関係している。 だが、単純にそう考えてはならない。例えば、水と日光のもっとも豊かな熱帯雨林は、その実体からいうと「緑の砂漠」なのである。豊かな水に恵まれ、そして誰よりももっと日光を得るために、熱帯の木々は上空へと昇る。そして太陽を目指して横方向にいっぱいに葉を広げる。まるで分厚いカーテンで、上空の太陽をさえぎったような形になっている。 どういうことかというと、地上に太陽の光が届かないのである。木々の光の当たる部分は真昼なのに、その下はまるで夜のように暗いのである。これでは低木や草花は育たず、それに依存する昆虫や動物も生息しがたい場所なのである。 上空から見ると確かに緑がいっぱいで、生物の楽園のように見えるが、その下、地表付近は、むしろ死の世界なのである。だからかつてこの南の島々で戦った日本の兵隊は、戦う前に飢えで死んでいったのである。 さてそれでは、いったい何が言いたかったのかというと、有りあまるほどの水と日光があっても、すべての生物にとっては、必ずしも楽園とはならない、ということなのである。 |