ヨーロッパのの起源(古代ギリシャ) p29


「自己意識」


しかし、古代ギリシャでは、こうした共同体の共有意識と、個人の個別意識が自覚されてはいない。だがしかし、この共有意識と個別意識との無意識の融合こそが、まさしく、「美」というものを生み出したのである。自意識というのが自覚されないので、精神の無限の永遠に繰り返さる反省といったものもなく、従ってまた、その自己完結し自律した精神の、未知の深淵からの問いかけもないのである。

自意識というのがいまだ分裂しておらず、そのため自分で自分を意識するということがないのである。そしてこの場合の自意識とは、彼の属する社会に対する意識であって、自分で自分に対峙する、そうした意味での自己意識とは言えないのである。彼の精神はいまだ自由ではないのである。

社会という共同体に囚(とら)われたままで、そこから出るということのなままの世界なのである。自分が生きている社会を、ないし自分自身というものを、外から客観的に見るということがないのである。彼が属する社会が、彼にとっての正義であり、オキテであり、道徳であり、そしてまた、彼が信じるもののすべてなのである。彼には、この社会と対峙して自律して存在する自分というのを知らないのである。


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