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だから事実、ぼくは、彼女に近づいたり、話したりするのが非常にはばかれた。彼女は僕にとって、みだりに近づいたり触れたりしてはならない存在であり続けたのである。 ただ、彼女に触れるだけで、ぼくの心はなにもかもが壊れてしまいそうだった。僕が生きている現実のなにもかもが、もはやどうでもよいことのように思えてきて、なにもかも捨ててしまって壊れてしまっても、よいと思えてくるのであった。何も要らない、彼女さえいればと。彼女だけが僕のすべてなのだと。 そうした、ぼくにしてみれば、何よりも大切で、けっして届いてはならない、限りなく神聖で貴いもののように思えてきてならなかったのである。 それは、ぼくが願い求めるところの示標であり、象徴であり、そしてそれが僕にとっての「しるし」となったのである。それがぼくの証明であり、根源であり、そして自分が生きているという理由なのだと思えてくるのである。 |
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