| index＜ 日誌 ＜ am種＜ 19-62「肉体の記憶」p5- |
| もしもそうした、いわば「失われた可能性」といったものが、自分のなかで見つからないとするならば、人間は、今いる自分以外の、何か別の自分になるということができないのである。 何もないところから、何かが生まれるといったことはなく、たとえ、目に見えなくて気づくこともない、そううした些細で潜在的な可能性に過ぎないものであったにしても、いずれにしても、「何か」が自分の中になければならないのである。 そうしたことが、忘れられ、失われ、消えて行った、そうした「何か」訳のわからない記憶なのである。不可解で、不思議で、自分でも得体の知れない、そうした自分のなかにある未知の記憶なのである。 意識や思考としてではなく、肉体そのものが身体そのものの反応の仕方として、あるいは、感覚の感じ方として保存されてきた、身体自身の記憶なのである。無意識の、自分でも何のことなのか理解の出来ない、そうしたワケのわからない「何か」の記憶のカケラ、痕跡なのである。身体だけが覚えている無意識の記憶の世界なのである。 |