index <  日誌 < K夫人:目次 32、「いざない」



〜3 祈り。

まるでカゲロウを見ているような、そんなおぼろげで、はかない、幻(まぼろし)のように見えて来て仕方がなかった。このままどこか遠くへ行ってしまう。僕たちを残して、僕たちを捨てて。僕たちのことなどきっと忘れてしまうのだ。これはきっとつかの間の、まばたきするほどの一瞬の、はかない夢なのだ。だから、けっして手放してはならないのだ。けっして、けっしてなにがあろうとも。

それは僕、そして僕たちの祈りであり、良心であり、願いなのだ。僕にはそれしかなく、それだけしかないのだ。それ以外に僕は存在しないのだ。イヤ、少なくとも僕自身はそうなのだ。それ以外になく、それしかなく、そうであるとしか言いようがないのである。

それはいつも僕自身の中にあって、もっとも不可解で、そしてもっとも本質的なものであり続けた、はてしのない祈りや願いといったものが、現実の世界のなかで、それを象徴するものとして映し出され、現れたのである。僕の心というのが、現実をそのようなものとして映し出したのである。だから、やはりそれは、ぼくにとって見れば天使であり続けたのである。

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