index <  日誌 < K夫人:目次 34、「示標」



〜2 現実。

だから僕の心はいつも、知らぬ間に彼女のいる方向へと向いてゆく。僕の心は、いつの間にか無意識の内に、彼女のところへと吸い込まれ、引き込まれて行く。職場のハズレのけっして目立つことのない、彼女のとっても小さな後ろすがたが僕の心を支配している。僕はどうにもならず、そうした、彼女の居る風景が、僕を惑わせ、迷い、狂わせ、当惑させ、戸惑わせている。僕は、いったい何をしているのだ・・・。

しかし、こうした心境というものは、自分でもよくわからないのである。感情というものですから。理由もワケも実際のところハッキリしないのである。彼女の後ろすがたがとっても薄く透き通って見えてきて、かぼそく、いまにも消えてしまいそうに、そしてそれが僕にはとっても、とっても可愛(カワイ)く見えてくるのである。何がなんでも守らねばならない、自分自身の理由のように思えてくるのある。実際、可愛いというのは、こういうことなのだろう。

僕の心の中にしかないものと思っていたものが、いま、目の前の現実の世界にある。僕の手の届く、すぐ目の前に。はるか彼方(かなた)の祈りの世界にしかないものと思っていてものが、僕のほんのすぐ近くにいる。夢でしかないものと思っていたものが、いま、ぼくの目の前の、すぐこの手の届く現実の世界にいる。僕と、僕たちと、そして彼女がいっしょになって仕事をしていて、生きて、呼吸して暮らしている。これは現実なのだ。

 戻る。                        続く。

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