index <  日誌 < K夫人:目次 36、「示標」



〜4 開示。

そして、とうとう告白してしまった。僕はシアワセだった。その瞬間だけは。そのあとはどうでもよかった。知らないことだ。いまがシアワセなのだ。ただそれだけが大事で、ただそれだけが僕のすべてだったのである。とうとうやってしまった。あれだけ鬱陶(ウットウ)しがられていると知りながら。僕は白状してしまった。すみません。シアワセだった。

シアワセだった? イヤ、それはウソだ。そんなものではない。そうするしかなかったのだ。そうせずにいられず、それを告白せずには僕の精神はもたなかったのだ。僕が破裂してそのまま空中で分解してしまいそうだった。だから白状したのだ。忘年会の席上だった。

「この職場にはじめて来たときから、ずっと、ずっとそうだった。<K>さんはいつも後ろすがたしか見えなかった。だからいつも、いつか僕たちから離れていってしまう、そんな気がしてきて。だから、みんなで守って行かなければならないのだと。ずっと、ずっとそう思ってた」と。

一瞬、彼女は固まり、たじろぎ、ためらい、そして小さくふきだした。たったそれだけ。それだけだった。彼女はすぐに他の男たちとの話題の中に消えて行った。ある意味で僕は助かったのだ。彼女は僕の告白というものを軽く受け流してくれたのである。気づかなかったのだ。告白したことで僕はホッとし、助かり、気持ちも晴れて軽くなった。心のなかのモヤが消えて、僕はまたいつもの自分に戻ることが出来たのである。

 戻る。                        続く。

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