〜3 透明。
当然である。同じものを見ていても、人それぞれ感じ方が違うのである。それが人間なのであり、自分にしかない個性であり、人間であることの証拠なのである。人によって感覚の受け止め方が違うのである。 しかしまた、だからこそ彼女が僕にとって、とっても大切な人のように思えてならなかったのである。自分には無い、欠けているもの、忘れていたものが彼女の中にあるように思えてならなかったのである。彼女にしかないもののように思えたのである。 僕は、彼女のそうしたところに惹かれ、導かれ、そして引きずり込まれて行ったのである。何か自分にとってかけがえのない、とっても大切なものが、そこにあるように思えてならなかったのである。僕のなかで彼女がコダマし、共鳴し、呼応している。そして僕の中で、彼女の心が乱反射して映し出されている。そして僕は、自分自身に「めざめ」ていったのである。 まるで、暗闇の中でまたたくほのかな灯(ともしび)や、心をノックするような美しい音色(ねいろ)に身体が勝手について行くように。彼女の心が、僕の心の中で乱反射し、コダマし、音色(ねいろ)となり奏(かな)でられている。そしてその中から、僕の心というのが映しだされて見えてくる。自分というのが透明になって、そして心だけがクッキリと見えている。 だから僕は、彼女を通して自分自身を見ていたのであり、自分自身がなくしていたもの、見失っていたものに気づき、発掘し、発見していったのである。僕は、彼女の中に自分自身の忘れられた世界を見ていたのである。 しかし、今となっては何もかも終わってしまったことである。僕の思いや心情といったものはすでに終わったのである。彼女は、こうした僕を拒絶し、無視し、完全に黙殺したのである。僕は嫌われたのだ。 戻る。 続く。 |