〜2 願い。
それは僕自身のすがただったのである。僕自身が忘れ、見失い、進んで捨ててきた、かつての僕自身の後ろすがただったのである。失われていた記憶だったのである。タマシイと言ってもよい。それは僕自身の、失われたかつての願いや祈り、希望そのものだったのである。 それがいま、僕の目の前の、現実の世界にあると思えたのである。彼女の後ろすがたとなって。しかし、それは同時に、かなたのけっして届かない世界でもあって、現実に生きている僕自身のちょうど反対側の世界なのである。だからまた、それは夢なのであって、夢でしかなかったのである。 もちろんそれは、まやかしで、偽りの現実に過ぎず、僕自身の孤独な妄想が作り出した、自分勝手な思い込みに過ぎないのである。そして、そういうことは、だれよりも僕自身が一番よく知っていることなのであって、僕自身がいつもそうだったのである。しかしまた、そうせざるを得ず、そうするしかなく、そしてまた、そうすることによってのみ、僕は救われたのである。 重く、暗く沈んだ、孤独な心の底から、何か明かりのようなものを仰(あお)ぎ見ることが出来たのである。やはりそれは僕にとって、救いや、祈り、願いであり続けたものだったのである。そうするしかなかったのである。そうする以外に僕というのが存在し得ず、それは僕自身そのものだったのである。 そしてそれが、すがたカタチとなって現実の世界にあらわれたのである。それが彼女だったのである。だから、彼女は僕にとって、祈りや希望そのものだったのである。もしかすると、それ以上のものだったのである。 戻る。 続く。 |