index <  日誌 < K夫人:目次 70、「みずいろ」



~4 衝撃。

そうした場面は非常に限られていて、なかなか出てくることが出来ず、また、なにかのハズミでそれが一瞬、表面に現れることがあっても、自分自身それに気づくといったことがほとんどないのである。日々の忙(いそが)しさの中で、気づかれないまま忘れられ、失われ消えて行くのである。

しかし僕はそれが失われないことを、消えないことを願い、祈り続けた。そしてそれを彼女に求め、迫ったのである。そして僕は正直に打ち明けてしまった。「水色(みずいろ)がとてもよく似合う」と。

そして僕は完璧に無視され、キッパリと、断固として拒絶された。何もかもが終わり、僕の心情や気持ちといったものは、すべて黙殺され否定されてしまった。僕は、自分の居場所や空気といったものを見失い、一瞬、自分自身とといったものを喪失してしまった。僕は、まるで自分がマボロシのように思えた。現実の中で自分が溶けて消えて行くように思えた。自分が失われてゆく。僕が消えてゆく。なにもかも。僕は戸惑い、茫然として我を忘れてしまっていた。そうやって何もかも終わってしまった。

これほどの衝撃は、かつて僕の人生の中ではなかった。しかしまた、たとえそれが苦しいことであったとしても、ないということよりマシなのだ。それは自分が生きているという実感であり、証明なのだ。そしてまた、だからこそ生きて行けるのである。

 戻る。                       続く。

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