index <  日誌 < K夫人:目次 73、「接触」



~3 正直(しょうじき)

僕は、仕事以外のことで女性と話をしたことがなく、付き合ったこともなく、遊んだこともない。自分の妻や娘に対してもそうである。そんな余裕などどこにもなかった。「生きて行く」という、ただそれだけで精一杯だった。僕はいつもそれだけしか何も出来なかった。それ以外の何も考えたことがなかったし、考えることも出来なかった。

楽しむということが出来ないのである。いまもそうである。そうした経験も記憶もないのである。だから、あたりさわりのない日常会話というのが出来ないのである。世間話しというのが出来ないのである。そうした場面というのを知らないし、また本来的にそれが出来る人間ではないのである。僕はそのように出来ていないのである。

だから、自分の気持ちといったものを、ありのまま正直に打ち明けるしかなかったのである。それが僕であり、そうやってしか自分を表現する方法を知らないのである。だからそうするしかなく、それが僕のすべてであり、それが僕のありのままの真実のすがたなのであって、僕自身そのものだったのである。それが僕自身の正直なすがたなのであって、そしてまた、そうやって自分を打ち明けるしかなかったのである。僕には、それしか出来なかったのである。

 戻る。                       続く。

日誌  <  目次。