index < 日誌 < K夫人:目次。< 74、「接触」。
~4 ワケ(訳)。
そのころ彼女はよく水色のカーディガウンを着ていた。そして僕は打ち明けた。「水色がとってもよく似合う」と。 僕は言った。 「水色はきっと空の色から来てるんですよ。はてしなく、かぎりなく、どこまでも。そしてそれは届きそうで届かなくて、それでいてどこか覚めていて。そんな、透き通るような純粋で透明な色。これはきっとKさんの色で、Kさんにしか似合わない色で、Kさんの心が色となって映し出されたのですよ。」・・・などと。 本当です。それは僕の本当の、正真正銘の正直な心情だったのです。 そのとき僕は、彼女に対してとんでもない、取り返しのつかないことを言ってしまったのかも知れない。K夫人はいきなり怒り出し、キッパリ、断固として断言した。「そんなの妄想よ、妄想だけよ、妄想だけでいい」と突然、僕をさえぎり叫んだのである。そして、ののしり怒りだしたのである。それは、正(まさ)に僕にとってみれば死刑宣告そのもので、僕はあわてふためき、当惑し、おどろき、どう答えてよいのかもわからず、顔色を失った。 そうした彼女の反応は、僕にとってみれば全く予想外のことだったのである。たしかにその日までは、彼女は僕のたいていのことを軽く聞き流してくれたし、心よく受け流してもくれたし、むしろ反対に、喜んでいてくれさえしていたのである。僕は訳がわからず当惑し、オロオロするばかりで完全に自分を見失っていた。 僕がかき集めて来たなけなしの、ありったけの褒め言葉と称賛を、彼女はアッサリ、キッパリ、断固として完全拒否したのである。僕のすべてを無視して黙殺し、拒絶したのである。まったく、いきなりの突然だった。こんなのってあるものか・・・。 戻る。 続く。 |