index <  日誌 < K夫人:目次 81、「理由」



~5 衝撃。

彼女から何かが消えた。彼女の中から彼女が消えた。彼女の中にあった何よりも大切なものが、彼女の中から消えた。彼女を彼女たらしめ、彼女が彼女であるところの、もっとも大切なものが消えた。彼女自身を動かし、彼女が彼女であるところの、彼女自身の情緒や心情といったもの、彼女の中にあって彼女自身を動かしている個性や、あるいは彼女にしかない、世界中でただ一つ彼女にしかない、何よりも大切な何かが彼女の中から消えた。そして、そうしたことが、僕の心の中からも見えなくなってしまっていた。天使が消えた。失われ、そして去って行ってしまった。僕の心の中で天使が見失われた。祈りや願いや希望と共に消えてしまった。

僕は当惑し途方に暮れ、嘆き苦しんだ。大きな衝撃でもあったし、愕然として自分自身の感覚をも疑ってしまった。本来、見えていたものが、当然のようにいつもそこにあったものが、いつしか失われていて見えなくなってしまっているのである。僕にとって、とっても大切なものが、いつの間にか消えて無くなってしまっている。心の中にポッカリと大きな空洞が出来てしまっている。どこを探しても、もはや何も見えなくなってしまっているのである。まるで、僕を見捨てて引っ越しでもしてしまったかのように。

 戻る。                     続く。

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