「自意識」

〜1、届かない。


たしかに、私自身と現実との間に何かが入り込んで来ている。そして、それが何なのか自分でも分からないのである。まったく、つかみどころのない、訳のわからないものなのである。もしかすると、何もなくて、私自身のただの思い込みに過ぎないのかも知れない。

そうだとしても、それでもやはり、何かが私自身と現実との間に入ってきている。現実の、目に見えるものとしてではなく、私自身の心の中の、観念の世界だけに存在する妄想だとしても、仮にそうだとしても、妄想として心の中だけで生きている現実にない存在として、私自身と現実の間に入り込んできている。

それが何なのか自分でもわからないのである。自分のことなのに。見知らぬ何かが私自身の中に入り込んできていて、私の知らないところで私を支配し、むりやり私の知らないどこかへ私を追い立てている。それは私の預かり知らない、私の感覚や意識の届かない世界なのである。

そして、それは同時に、私の肉体を支配しているのである。私であって私でないもの。私自身の感覚や私自身の意識の届かない身体の仕組みや、その生理作用。あるいは、自分ではどうにもならない肉体のカタチや、持って生れた意識されることのない、感覚器官の機能や役割といったものである。

それらは、自分のものであって、そしてまた、自分ではどうにもならないものなのである。本人の意識や意思の届くことがない、それとは別の世界なのである。にもかかわらず、それは自分自身の身体(カラダ)なのである。これが私自身の現実のすがたなのである。どうにもならず、わけが分からないとはこのことなのである。

目次へ             つづく。