「情緒」

〜1、ヨソ者。


自分が社会のヨソ者、別世界の住人のように思えて来て、そしてそうしたことを意識していること自体が、社会と自分自身を否定することになる。この世のだれからも疑惑の目で見られかねない。だから、こんなこと誰にも言えないのである。言ってはならないことなのである。

自分がそれに気づいているということ自体が、この社会にとって危険な存在なのであって、それは、あっても居てもならないものとして排除しなければならないのである。だからまた、隠(かく)さなければならないし、気づかないフリをして見てなかったように振る舞わなければならない。そうしないと、自分がこの社会から追い出されてしまう。それは、この社会という現実を生きる者にとっては、知ってはならないものなのであって、気づいても意識してもならず、見てはならないものなのである。

だれもがみんな、そうやってグルになって、群れて、もたれ合っている。人格も曖昧で、自分と他人を区別する精神の領域も限りなくぼやけたままである。プライバシーなどない。プライバシーなどあってはならないものなのである。相手の心の中を見えなくするし、自分と他人の間に壁を作って、社会全体をバラバラにして、わけの分からないものにしてしまう。

実際そうだった。今、思い返して見るとたしかにそうだった。学校の先生も、上司も、警察も、みなそうだった。どこか訳のわからない、何を考えているのかもわからない、みんなと違うことを考えていて、そしてそれを隠している。ということは何か絶対に悪いことを考えているに違いない、といったふうにである。

目次へ             つづく。