怪談:「背中」

〜1、苦しみ。


人が集まるところ。駅、マーケット、祭り、電車の中、・・・等々。集まる人々は千差万別で、それぞれが自分の個人的な都合と目的で集まってくる。

しかし中には、そのどちらでもない人間も集まってくる。そこへ来る理由がないのである。だから、理由そのもの、自分の生きている理由を求めて、それを探しにやって来る人もいる。

理由のない人間の、その苦しみというのが、どこへもやり場がなく、行くアテもなく、自分自身のなかで押し殺して行くしかないのである。これこそが本当の純粋の苦しみである。自分で自分に苦しむのである。理由は自分の中で見つけるしかないのである。もちろん、そんなものあるはずがない。

すべてが自分のなかで完結し、他人とのかかわりのないところで、自分だけが苦しみ続けなければならないのである。苦しむこと自体が「目的」となっている。際限のない苦しみそのものが自分の「理由」、また、その「目的」になっている。

だから、そうした自分から逃げ出したいから、そうした孤独で救いのない底無しの苦しみから脱出するために、あるいは、そうした自分を意識したくないために人の集まるところに集まってくるのである。

             つづく。