怪談:「背中」
〜2、いざない。
自分で自分を意識する。自分で、自分の中にいるもう一人の自分と向き合い、そして意識している。まるで、だれもいない一人ぼっちの部屋の中で、鏡(かがみ)の中の自分と対話しているようなものである。精神が錯乱し倒錯する。自分がもう一人の自分に呑み込まれて乗っ取られそうになる。それに取り憑かれ、乗り移られて自分を失いそうになる。 そしてこの、もう一人の自分というのが、自分でもだれのことなのか、まったくわからないのである。たぶん、ボクより前に僕の肉体に住んでいた、もう一人の別のボク自身のように思えて来てならないのである。 だからこそ、それが無視することが出来ず、忘れられず、いつでも、どこでも、ずっと僕を背後からせまってきて見つめ続けている、そんな気がしてくるのである。そうやって僕を支配し、操(あやつ)り、おびえさせて、どこか見知らぬ死の世界へと誘いだそうとしているのである。 これが僕の潜在意識なのだろうか。自分の心の奥底のどこかで、それを求め、期待し、のぞむようなところがきっとあったのだろう。でもそれは、たぶん誤解である。精神はたぶん自分の中にあって、自分のものではない、何か得体の知れないものに気づいていて、それが精神をむしばみ、おびやかし、おどしし続けていて、それにさいなまれ、苦しみ続けているのである。 |