怪談:「背中」

〜3、災いのタネ。


そしてそれが、いったい何なのか自分でもわからない、正体不明の、得体の知れない、つかみどころのないものなのである。そしてまた、そうしたところに、もどかしさ、わずらわしさ、そして恐れ、おののき、おびえているのである。自分の中に巣食う底無しで際限のない理由なき恐ろしさ。

自分で自分の中をのぞき込んでいて、そして純粋の果てしのない恐ろしさに自分を忘れてしまいそうになるのである。自分が誰なのかわからなくなる。自分が自分で無いのかも知れない。自分が他人だったのかも知れない。僕は他人の肉体の中で生きていたのだ。こんな恐ろしいこと他にあるものか。

それは呪いであり、厄介(やっかい)のタネであり、災いのもとなのである。にもかかわらず、それは意識されなければならない。それが、精神の務(つと)めというものである。

もどる。             つづく。