怪談:「背中」

〜4、未知。


得体の知れないもの、見知らぬもの、わけのわからないもの、そうしたいままで見たこともないようなもの、知らないものについては、精神自体がどう感じたらよいのか自分でも分からないのである。そうした感覚や感情といったものを、どのように表現したらよいのか分からないのである。それは、いままで感じたことも表現したことも無いものだからである。

だからこうした心証、心の動きとでもいったものが、何かの脅迫観念として、心の中で表現されたのではないだろうか。まるで、危険直前の予告信号のように。なにかの異変を感じて、とりあえず、それを「恐れ」として表現したのではないだろうか。

ただし、ここでいうところの「恐れ」や「危険」といったものは、あくまでも精神の中だけの、観念的なものであるということである。自分がいま生きている現実の、直接の恐れでも危険でもないということである。それは現実から切断されたところにある、純粋に自分の頭の中だけにある恐れや脅威だということである。直感や、本能や、第六感とでもいうべきものである。

もどる。             つづく。