「恋する図書館」
~2、本の世界。
それはつかの間の、瞬間的なもので、例えば、遠くから聞こえてくる稲光(いなびかり)の音や、その光。あるいは何かの幻(まぼろし)や、めまいの中に暗示される、祈りや願いの予感のようなものである。 そうやって一瞬、瞬間的に目を開いたままで夢を見ているのである。ほんの一瞬、まったくの瞬間である。ほんの瞬(まばた)きするほどの、非常に短い瞬間である。そうやって、知らぬ間に僕の精神は現実を離れているのである。 肉体だけが現実を生き、精神はいつのまにか現実を離れて、夢の世界を、はてしない永遠の世界を生き、そして、さ迷い続けているのである。なにかを求め、予感し、一人ぼっちの閉じた自分だけの世界の、その向こう側にある世界を垣間(かいま)見ているのである。 向こう側にいる、もう一人の自分自身を見ているのである。忘れられ、失われ、消し去られていったもう一人の自分である。だからそれは、自己の発掘であり、再発見であり、ほのかな「めざめ」の世界なのである。 |