「春のゆくえ」

〜3、逆。


春に雨が降ると植物はむしろ活発に反応し、その水を取り込んで活動し、生命の成長の糧にしているのである。要するに、同じ水に対する生物の反応が、春と秋とでは反対なのである。

これは、「方向」が逆だということであって、これから開いて昇りゆく春と、これから閉じて沈み行く秋との対応の違いなのである。しかしまた、その季節の、移り変わりの一瞬の、瞬間の断面だけを切り取って見ると、春も秋もほとんど変わらないのである。

これから失われてゆく水分の「うるおい」なのか、あるいは、これから満ちてくる「うるおい」なのか、「うるおい」のその瞬間の断面だけを見てもわからないのである。時間的な変化の過程を知ることなくして、春と秋の本質的な違いは見えて来ないのである。

「方向」とは、時間的な変化の移り行きであって、これからとこれまで、前と後ろ、進行と後退、正面と背面、上と下、・・・等など。つまり、時間の経過によって、その目指すところが正反対になっているのである。だからまた、誤解もされやすいのあって、進む方向というのを、つまり、歴史というのを見極める必要があるのである。そうした時間的な変化のありさまから、その中で働いている原理や論理や規則といったものが見えてくるのである。

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