17目次へ < 怪談「ものの気配」


〜1、おびえ。



何もないところに感じる人の気配や、
息づかいといったものは、
とっても気味の悪いものであるが、
実際には、それは何かを勘違いしている。

感じる気配とは、なま暖かく湿っぽい
得体の知れない何かが、肌をなでる感じで、
それがうつりながら近づいては遠ざかっていく。
つまり、人の気配なのである。
何もない、あるはずのないところに、
それが感じられて来るのである。

しかし、それもやはり勘違いなのである。自分で、
自分の感覚に過敏に反応し過ぎているのである。
自分の感覚が、自分の中にある正体不明の感覚に、
わけもわからず戸惑い、恐れ、おののいているのである。

何かがそこにいるはずなのだが、それが見えず、
なんのことかわからずに、ただ恐れおののいているのである。
そうするしかないのである。わけがわからないのだから。
だから毛が逆立ち鳥肌になるし、熱もこもって、
風もないのに、何かが肌をなでてゆくようにも感じられる。
だから、誰もいないのに、だれかがそこにいて、
僕に近づいて来ている。ずっと僕を見つめ続けている、
そんな気がしてくるのである。

そして、そうした自分自身の感覚に、強い異和感をいだき、
それがまるで他人の感覚のように思えてくる。
まるで、外から他人が、自分のなかに入って来ようとしている、
そんなホントに、気味の悪い感触なのである。
自分の中にある未知の感覚に、自分自身で戸惑い、
それがなんのことかわからずに、混乱し、おびえているのである。

                    続く。