< 怪談「ものの気配」


〜2、未知。



息づかいや音もそうである。
気配としての息づかいや音も、
自分の呼吸の息づかいであり、
自分の心臓の鼓動の音である。
それが普段とはかなり異なった、
振幅と抑揚、リズムとして聞こえてくるのである。

息の呼吸と、心臓の鼓動が異様に大きく感じられ、
まるで、何かにせかされ呼応しているかのように、
聞こえてくるのである。まるで自分の息や鼓動の
音ではないかのように聞こえてくるのである。
当然である。普段の自分にはない、
自分でもコントロール出来ない、心の奥底から聞こえて来る
音なのだから。

自分のリズムが壊されて、自分以外の、
自分の中に住む、もう一人の他人のような自分が、
息をして、呼吸し、鼓動しているのである。
そうやって何か別の、もう一人、他人のような自分が、
自分を見つめ続けている。そう思えてくるのである。

だから、だから自分が他人のように思えて来て、
自分がこの他人に乗っ取られて、
自分が追い出され、殺されて、消えてゆく。
そうした自分の中にいて、自分でもどうにもならない、
他人のような自分の気配を感じているのである。
現実の他人の気配を感じているのではない。
自分の心の中に住む、見知らぬ他人の気配を
感じているのである。

 戻る。                続く。