< 怪談「ものの気配」


〜3、自己分裂。



心のなかで、自分が自分でなくなって、
オバケのような他人によって浸食され支配されてゆく。
そうした気配を感じているのである。
それは、分裂した自分自身の、精神のすがたなのである。
だからとっても恐ろしく、また、理解も出来ず、
自分でもどうにもならず、まるで自分が他人のように
思えてくるのである。

そして本当の自分は、現実の生きた自分から離れて、
身体(カラダ)から分離独立して、
観念の世界をさ迷い続けている。
まるで肉体を喪失した亡者のように。
自分の理由と根拠を、どこかで失ってしまっているのである。
自分の存在の理由が見つからないのである。
自分の居場所や役割、立場といったものを失っている。
自分が誰か、わからなくなっている。

それはたしかに、ある意味で、
だれか自分以外の他人なのである。
自分であって、同時に、自分ではないのである。
ただし、現実の実体のない、
空想の世界にのみ存在する、他人なのである。
自分の精神の世界にのみ存在する他人、
自分の心の中に住んでいる、
もう一人の自分なのである。

そしてそれが、まるで、自分とは別に、
現実に生きている人間のように勘違いされている。
それが、まるで他人の気配のように思えてくるのである。
そのように聞こえても来るし、
触れてもいると感じられてくるのである。

 戻る。                続く。