目次。< 「アングル(様々な角度)」
~3 みずいろ。
彼女のヨコ顔、そしてそのすがたといったものは素晴らしく、魅力的なものだった。僕にはそれが、まるで小学生の女の子のように見えた。純真で透き通っていて、心の中がそのまま透明になって映っている、そんな情景であり続けた。僕はいまも、そう感じている。彼女はどうしてこうも美しいのかと。 でも、正面から見ると確かに普通のオバサンなのだ。これがわからない。なぜそう見えるのか。それは多分、彼女を見る僕が現実に戻ってしまっているからなのかも知れない。正面から彼女を見るのは、彼女と話しているときか、いっしょに何かしているときであって、僕は現実に戻っていて、きっと彼女を理想化したり、なにかの象徴として見ることが出来ないでいるのである。いつの間にか生活者としての僕と彼女(K夫人)の関係に戻っているのである。 ありきたりの、与えられるままの、自分を見失い、定められたレールの上を歩くだけの、自己を喪失した普通の人間に戻ってしまっているのである。しらじらしく、わざとらしい、ヤラセと思い込みだけが支配する、なんの意味もないイミテーションの世界なのである。自分自身の感情や考え方、生き方や、自分が生きている何もかもが、あらかじめ自分以外の誰かによって定められている、マニュアル化された世界なのである。これでは生きて行けない。精神が死んでしまう。現実とはそうしたものだ。 だからやはり、ヨコ顔なのだ。ヨコ顔以外にないのだ。そしてそれは水色である。彼女は、僕にとって水色でしかなかったのである。それ以外の色はあり得なかった。それは彼女の心が透明になって、外へ映し出された色なのである。それは、彼女自身の色であって、それ以外の色ではあり得ず、それしかなく、それは彼女の色だったのである。 戻る。 続く。 |