〜5 ヨコ顔。
ただし、もちろん正面の顔であっても、現実離れしていて生活のニオイがしない、そうした顔もあり得る。まれにではあるが、たしかにそうした場面がある。正面からこちらを向いているにも関わらず、彼女の目というのが現実を見ておらず、ウツロになってどこか遠くを見ている場合である。 彼女は、僕と二人っきりで見つめ合っているのであるが、実は、僕を見ているのではない。僕の方を向いているだけで、僕を無視して目の中は、僕とは別のものを見ているのである。現実に二人っきりで向き合っているのであるが、頭の中は、別の現実を見ているのである。 お互いがまともに向き合っているのであるが、お互いが別々の現実、違う世界を生きているのである。彼女は僕を見つめているのであるが、その目は僕を素通りし、無視して、僕とは別のものを見ているのである。同じ現実を心がすれ違ったままで別世界を生きている。(こういうことは夫婦の間でもしょっちゅうある) だから僕にとって「彼女」はヨコ顔だったのである。ヨコ顔以外にあり得なかったのである。面と向かって話し合えるようなそんな親しい関係でも、そしてまたそれが、日常的で当り前の関係でもなかったのである。あくまで僕は彼女にとって部外者、第三者でしかなかったのである。だからやはり、僕にとっての彼女のイメージは、ヨコ顔でしかなかったのである。 いつも、客待ちで外を見ているか、所内で何か作業している、そうしたヨコ顔、現在進行形の姿なのである。つまり、それを見ている僕は、いつでもどこでも彼女にとって第三者でしかなかったのである。 戻る。 続く。 |