〜3、「裂け目」
それは、日常のごく普通の風景のなかでも現れることがある。もちろん、夢の中でもそれと似たような現れ方をする。空間がズレるのである。ズレて歪んでたわむのである。そして漂い、押し出されて、なにかの中身が表面に浮かんでくる。生きた素肌の生地(きじ)の引き裂かれたさけ目から、何かが浮かび、にじんで来て、そして問いかけている。 現実の空間の中から、なにかのカゲロウのようなものが見える。明暗の濃淡、あるいは途切れとぎれの線が、ぼやけてかすんだまま、どこかでつながってきて、浸食して、広がってゆく。そして、おぼろげでぼんやりした、何かのすがたとなっている。たいてい、人のすがたである。 それが空間の軋(きし)み、裂け目の中から露わに見えてくる。あるいは、裂け目そのものが、人のすがたとして見えてくる。たいていは、うつむいたままの苦悩と絶望のすがたであって、ありのままの露わな姿で、浮かんでいる。 戻る。 続く。 |