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〜1、「めざめ」


春の日のうるわしさ。冬と夏の間にあって、
いまだ少し肌寒く、そして優しげな太陽の暖かさ。
夏のような暑さではなく、冬のような冷たさでもなく、
暖(あたた)かいのである。それが優しくカラダをつつみ、
照らし出している。

殻(カラ)の中にこもって、固く閉ざされていたものが、
出ている。開いて、めばえて、めざめている。
なにかが始まっている。景色の中で、
景色がゆるんで開いてきて、そして、
いままで隠れて見えなかったものが、あらわになって、
その本当の姿を、生のままで、何もかくさずに、
そのままのすがたで、あらわに出ている。

戸惑い、さ迷い、ためらいながらも、自らのすがたを、
あらわに見せ始めている。外はまだ肌ざむい。
だがしかし、ひきこもってしまうほどの寒さではない。
むしろ、あたたかい太陽の陽ざしの下へ、導きいざなうような、
そんな心地よい肌寒さである。

事実、空気はまだ少し冷たいが、
耐えられないというほどではなく、むしろそれよりも、
太陽のあたたかい陽ざしが、世界をまんべんなく照らしていて、
そのもとへ、目に見える景色をいざない、導き、
そして開かせているのである。心地よい充実した、
引き締まった、さわやかな冷たさの中から、
暖かい陽ざしに向かって、生命が溢れて満ちてくる。
麗(うるわ)しき情景とは、このことだ。

戻る。              続く。