「目の中の世界」


〜1、おぼろげなカタチ。


覚めて、目を開けて見る外の世界は、現実の世界である。そうではなくて、目を閉じている世界は、自分の中の世界を見ている。自分で自分の肉体を、あるいは心の中を見ている。

めざめて意識のある状態で目を閉じると、やはり何かが見える。目を閉じたままでも視覚神経は、目のなかでそれなりに機能しているのである。これは、目のマブタを透かして入って来る微かな光を、末端の視覚神経がとらえて反応しているのである。あるいは真っ暗な部屋の中で目を閉じても、やはりなにか見える。

外の光と、自分の中の視覚神経との間に、マブタが入ってきているので、実際に見えるのは、なにかの形とか輪郭として見えるのではなくて、おぼろげで形(カタチ)にならない、何かぼんやりした、とらえることが出来ないものである。たとえると、雲のように常にゆれ動き、もやもやしていて、なにか得体の知れない、とらえどころのない姿である。なぜ、そうなのか?

意識は覚めていて、視覚器官は正常に作動していても、目を閉じているために何も見えない、はずなのである。しかし、何かが感じられなければならない。そうでないと、自分にとっての目というのが、実際に機能しているのかどうか、あるいはまた、もっと根源的にいって、自分に目というのが有るのか無いのか、わからなくなるからである。自分にとって、「目」という感覚器官があるのかどうか、それを自分が持っていて、そしてそれを、自分の意思でコントロール出来ているのかどうかが、わからなくなるからである。


戻る。             続く。