「アイデンティティー」
〜１、陽気。
| 朝から梅雨時のどんより雲。雨はないがむし暑くうっとうしい。でも、昼前に晴れて陽気になる。蒸し暑いが気分は陽気である。かるく、わくわく、うきうき。うっとうしかったことへの反動なのだろうか？ 自分の意思とは関係なく肉体がそれを求めているのである。 しかし例えば、このような陽気しか知らない国民は、その気分といったものは、年中陽気なのだろうか。もしもそうした国民に「それが陽気なのだ」と言っても理解されることはない。そうした国民にとって見れば陽気な状態しか知らないのだから。「それが陽気」だと言われても、なんのことか知りようがないのである。 だから、陽気の国に住む人々にとっては、陽気でない状態とは、経験したことのない異質な未知の世界、いうなれば、非日常の世界、異文化・異界の世界なのである。だからまた、陽気だけの天気が年中続く国の人々は、それ以外の気分の持ち方というのを知らないのであって、それを知るためには陽気でない世界を知る必要があって、そうなって始めて自分が陽気な人間であることを、知ることになるのである。 自分というのを外から見つめ直すことが出来るのである。自分の姿（すがた）といったものは自分ではわからず、自分の外から客観的に見て始めて見えてくるのである。いつもの自分とは別の視点で自分を見る必要があるのである。自分を外から見る必要があるのである。 そうしたことが、未知なるものとの遭遇、異文化との交流からわかってくることなのである。未知なるもの、異質なるものを通して、実は自分自身の知られざる世界を見ているのである。自分の中にあって気づくことのなかった違う自分を見ているのである。それは本来自分の中にあったものなのであるが、それがよみがえってくるのである。かすかな記憶の断片として。記憶のかなたに忘れられ失われていたものがめざめてくるのである。 |