「めざめ」
~5、初期化。
もはや以前の自分に戻ることはできない。自分は追放(または解放)されて以前いたところから出て来たのだ。そうするしかなかったのだ。もはやそこで生きて行くことが出来なかったのである。そこで生きて行くことが出来ないように出来ていた、というのが自分という人間の存在だったからである。自分という人間が現実から締め出されていたのである。自分という人間は、この現実とはもともと別の存在だったのである。 この現実にいるはずもなく、居てもならない存在だったのだ。もともとそのようにこの世に生まれてきたのである。そのようにセットされ、そのように仕組まれ、そのようにプログラムされてこの現実に生み落とされたのである。それしかないように。あるいは、僕という人間がもともとそうするしかないように出来ていたのである。他に選択枝がないままで、それしかないようにしてこの世に出てきたのである。それがまるで僕の存在の理由であるかのように。 それが僕の真実の姿(すがた)であり、ありのままの、あらわな、生まれたままの姿だったのである。そしてそれに気づかされたのである。ちょうど水面の中を覗(のぞ)き込んだ時のように。閉じたキリの中の世界が、輝く太陽の下で晴れて、開いて、透き通って見えてくるように。 |