「島」


〜1、曖昧。


島であるということ、つまり、逃げ続けるということが出来ない、ということである。ここで生まれたら最後、ここでずっと生き続けるしかないのである。

文化というのが歴史的にも空間的にも固定され続け、あまりに特殊化してしまったために、社会と経済の国際(グローバル)化に馴染めないでいるのである。日本人が外国で暮らすには、自分たちの文化や精神のあり方に、あまりに違いがあり過ぎるのである。だから、日本で生まれた者は、日本で生きて行くしかないのである。これが日本と世界との間にある精神の根本的な隔(へだ)たりである。

第二次大戦終結直後、ナチスドイツの将官たちは追及を恐れて、数千人が南米へと亡命していった(*そこはドイツの植民地が多かった)。ところが日本では、外国へ逃げた将官は一人もいない。それどころか、将校の数千人が自殺している。義憤に駆られてである。追及を恐れたからではない。アイデンティティーといったものが自分自身の中に無くて、日本という共同体の中に存在しているのである。自分を個人としてではなく、共同体の全体性として見ているのである。

精神的でない、現実の隔(へだ)たりとは海のことであって、日本と大陸とをへだてるこの海が、日本を孤立させ特殊化し、個性化してきたのである。世界(大陸)と日本の間に海が存在するということ、つまり、日本という島に物理的な境界線が設けられているのである。

たやすく海を渡って、向こう岸へ行くというわけにはいかないのである。逃げ続けるということが出来ないのである。この場所で、いままでの周りの者との間にあって、彼らと共に生きて行くしかないのである。だから、争いは起こせない。なんでもかんでも曖昧にする傾向がある。意思表示も常にハッキリしない。

もどる。              つづく。