「2:古代ギリシャ」
〜3、喪失。
自分から進んで自由になるしかなかった。自由に生きる以外に方法がなかったのである。自由以外に何もなかったのである。自由に生きることが出来たのは、自由しかなく、自由に生きる道しかなかったからだ。自分の意志とは関係なく、自分の意志を打ち砕く現実の条件が、すべての生存の可能性を破壊してしまって、人間をして自由に生きて行くことを余儀なくさせたからである。 このような、見捨てられた世界、何もない世界、自分で生きて行くしか無い世界だったのである。すでにあるはずの、先行する生存のシステムに頼(たよ)ることが出来なかったのである。歴史が切断されたのである。自己というのがどこかで断絶し、何か別のものになっていたのである。自分が、それまでとは違う何か別のものになっている。 自分が自分でなくなり、新しい原理とキズナの下に、新しい自分が生成されたのである。しかし、それに気づくのは、たいてい、自分が別人になった後のことで、自分で自分を振り返ることが出来るようになってからである。つまり、以前の自分と現在の自分とが違うものとして比較できるようになってからである。自分が以前とは、どこか違う人間になっているのである。自分が、それまでとは違う自分になる、ということが起こっているのである。また、そうしたことが自分でも意識されるのである。 |