「情緒の世界」


〜1、無意識。


気候とは、人間をつつんでいる空気のことで、それは本来、暑さ、冷たさ、硬さ、涼しさ、湿っぽさ、柔らかさなどで表わされる無機的なものである。しかし同時にそれは、人間の感覚からすると、心理的状況としての蒸し暑さであり、薄れてゆく感情の意志的な暑さであり、寒さでもある。そしてまた、心地よい穏(おだ)やかさとしての柔らかさであり、そして春の、情緒的で明朗な、明るく大気に溶け込むような、めざめの柔らかさでもある。

こうしたことが人間にとっての感じ方といったもので、気候としての空気の質が、人間の生き方、感じ方、暮らし方に大きく影響を及ぼしているのである。

それは単に、人間の外にある自然の感覚的な感じ方ではなく、心理的で生理的な感じ方、呼吸や鼓動、心拍や、体内をかけめぐる血液のリズムといったもので、そうしたことがアンサンブルとなって、一つの情景の型(パターン)となって、外の自然と人間の身体が一体となった、意識されざる無意識の世界を作り出しているのである。それはまさに、この地を生きてきた民族の、情緒的特性といったものなのである。

現実の外の世界と自分自身との間に空気があって、この空気が人間を包んでいて、そして、これが人間を支配している。そうしたことが意識されることのないままで、あまりに当然で当り前のこととして、だれも気にも留めないでいるのである。しかし、やはりこの空気が人間を支配していると言わざるを得ないのである。空気が人間と外の世界を行ったりき来たりしている。

              つづく。