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6、優しい。



モヤ「(靄)よりも濃く、キリ(霧)よりも薄く、空気中をただよう水蒸気が、地上の世界を覆っている。これが春カスミの世界である。それは、非常に薄い雲の中である。天上の世界が雲となって地上に降りて来たのである。このうす雲の中で人々は世界を見ている。風はほとんどなく、地上と空全体をカスミがおおい、遠くの景色が白いカスミのなかで、その影だけがうすぼんやりと見え隠れしている。

昼過ぎなっても、なかなかカスミが晴れないのは、気温が夏のような高温にならないのと、豊かな水分があって、それが大気中に供給され続けるからである。それは夏のように、植物の成長を強力にうながすような、そんな暑さでもないが、同時にその暑さ、むし暑さで、若葉や新緑をいぶり殺すような、そんな強すぎる暑さでもない。

それは、もっと穏やかで暖かい。新しい生命を優しく包み、開かせて、世界全体をすみずみまで、全体として暖め広げてゆくような、そんな、穏やかで心地よい暖かさである。ふっくらしていて優しげな、そんな、触れる肌の感触にも、見た目にも優しい、そんな暖かさである。

戻る。             続く。

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