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2、クサビ。



しかしそれが何だったのか、自分でも思いだせないのである。というのは、それが言葉とか思考以前の、もうろうとした霧の中の記憶だからである。このような意識の届かない世界での記憶というのは、つまり意識以前の、自己と他者とが区別される以前の、または区別する必要のない世界にあっては、記憶というのはあいまいでおぼろげな記憶でしかないのである。

意識がいまだそれを記憶として意識することのない、そこまで達することのない感覚とか感受性といった段階のままの記憶である。意識が届くことのない、肉体のままの記憶の世界なのである。だからめざめて、それを思い出そうとしても決して思いだせないのである。

にもかかわらず意識のなかでは、それがクサビのように打ち込まれていて、その正体不明の何かが様々な言葉にならない得体の知れない、なにかの衝動として迫ってくるのである。


 戻る。              続く。

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