index < 日誌 < u列島< 「豊芦原の瑞穂の国」、中p9/


 
6、うつろい。




日本の四季の変化はもちろんであるが、一日の朝夕の変化もまた著しい。湿気と霧が、見えるものだけでなく、肌に感じる暑さ寒さを、耐えられないほどまでに肉体のなかに迫ってくるのである。肌に触れる感触や、乾きや潤い、そしてまた、肉体内部の情緒や感受性、そしてそのリズムに直接深く係わっているのである。

それだけではない。山が多く複雑な地形は、峠を越えてほんの数百メートル移動するだけで、まったく異なる植生と風景に出会うことがある。文学でいう「トンネルを越えると雪国だった」というは、まったくその通りで、このような時間と空間の、変化と移ろいの世界を日本人は生きてきたのである。

「うつろい」とは、気持ちの持ち方と情緒の世界を示している。様々に無限の変化をくり返し、映り、移ろう時間と空間のなかをさ迷い漂いながら、それに身をまかせて流れてゆくのである。そうした変化と「うつろい」の世界を精神は生き、その中で自分を確かめ、認め、問いかけ、あるいは見つめ続けているのである。


戻る。            続く。

index < 日誌 < u列島< 「豊芦原の瑞穂の国」、中p9/