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| それは、歴史的に見るならば、自分自身の祖先から受け継がれた肉体の情緒や感受性、感性といったもので、それらがバランスされ、調和され、安らいでいるのである。そして、そうした自分の中にあって自分を支配している世界が、まやかしと偽（いつわ）りの、誰かに仕組まれたウソの世界のように思えてくるのである。 自分を包んでいる世界といったものが、おぼろげにかすんで見えて来て、何もかもが平板でカゲロウのように薄ぼんやりしていて、偽（いつわり）の世界のように思えてくるのである。まるで夢の中を見ているように。 自分と世界との間に何かわけのわからない異質なものが入り込んできている。目に見える世界がかすんで見えてきて、揺らめいて、揺れ動き、軋（きし）んで、移ろいでいる。ぼやけて、ぼんやりして意識が薄れてきて、何かはてしない届かないものを見ている。 空間が歪んで、張り裂けて、その裂け目から誰かがこちらをのぞき込んでいる。そして、なにか訳のわからないことをぶつぶつと、ひとりごとの様につぶやいでいる。それが何のか自分でもわからないのであるが、言葉でもカタチでもない、それ以前の、言葉にもカタチにもなる前のものなのである。 |