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1、彼女。



それは、職場という人間集団が、彼女に求める存在の理由なのである。

そして、それがまた、彼女の必然性であり、求められる理由なのである。必然性とは、ここにいるべきもの、いなければならないもの、欠けてはならないもの、そうあるべきもの、そうならざるを得ないもの、という意味である。

この職場で唯一の女性という彼女の存在。優しくおだやかで、もの柔らかく、親しげな彼女、あるいはまた、軽薄で情緒不安定な彼女の存在は、この職場において、なくてはならない存在なのである。それは、彼女の容姿や心情、気持ちとはほとんど関係のないことなのである。

それは、彼女自身とは無関係に、職場という人間集団が彼女に求める理想のすがたであり、願いなのである。そしてこの職場「空気」が彼女に求める、彼女の役回りなのである。それは言わば、この職場のだれもがそうでなければならない、良心のようなもの、そしてその象徴なのである。

いつでも、どこでも、常に自分たちが立ち返り、振り向き、問い続けなければならない、自分たちの「良心」なのである。自分が人間として忘れてはならない、他人に対する思いやりや気づかいなのである。それは、のぞみや、願い、あるいはまた、自分たちのほのかな希望なのである。

それは失われたもの、忘れられたもの、人知れず消えて行ったもの、そしてまた、私たちが排除し続けてきた者たちへの深い懺悔と鎮魂であり、罪の意識である。そしてまた、祈りであり、願いであり、希望の象徴でもあったのである。


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