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1、復活。



遠くの景色が春の白いカスミで薄ぼんやりと隠れていて、そのなかから景色の表面が薄く見えてくる。まず、輪郭のボンヤリした色として。そしてその次に、陰(かげ)の濃淡で表される模様として。そして最後にその輪郭が見えて来る。

普通は、遠くの輪郭が最初に見えてくるものであるが、大気のカスミがかった状態が、もののカタチとしての輪郭線を隠していて、ものの表面というのが最初に見えてくる。

そしてその輪郭はいつまでたっても不明瞭なままである。現れたり消えたりしている。ちょうど白いカスミの背景の中から景色が浮かんでくる感じである。まるで水彩画の世界から出て来たように。白いキャンバスの中から景色の情景が浮かび上がってくる。

春の光は結構明るく、他の季節にくらべるとカスミというのが、いっそう白く見える。日光の乏しい冬から豊かな春への変化の過程にあって、人間の目というのがいっそう光を敏感に感じているのである。

また、春の光というのは、光が直射するというよりも、身体全体で受けている感じである。薄い水蒸気のカスミが直射光を遮り、光を拡散させて、水蒸気を通して身体全体に光と熱を運んでくるのである。だから空気の白さがまぶしくも感じられてくるし、明るく、何かを予感させるような暖かさなのである。予感とは、この水と熱がもたらすであろう、新たな生命の復活のことである。


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