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モヤより濃く、キリよりも淡い薄雲が地上に降りて来て世界を支配している。この白いカスミのなかで光は乱反射をくり返し、拡がり散らばっていって、世界をすべての角度からまんべんなく照らし出している。 物体から落とす影が消えていって、色だけがぼんやりと白い背景の中から浮かんできて、映し出されている。そして、表面の陰影が薄ぼんやりと模様となって見えている。ちょうど見える景色の内面が浮かび上がって来て、映し出された感じである。 景色と、その背景となっている白いカスミのあいだの境界部分が、いつまでたってもボンヤリしていて、白いカスミがその輪郭線を隠して曖昧にしているのである。だから、春の景色の情景は何もかもが丸みを帯びていて、表面の中途半端なでっぱりとか角、細かな起伏といったものは消えていて、隠れて見えない。 そしてそんなことは気にもならないし、どうでもよいことのように景色は、おおらかで穏やかな、まるで自分のもとへ導きいざなうかのように、優しく映し出されている。 優しいというのは春の空気の、淡い白さの「色」なのである。そしてこの「白さ」は、明るい光の下で、空気中の水分に光が反射する色なのである。それは冬の空気のような薄暗さでもなく、夏の水蒸気のような蒸し暑さでもなく、あるいは秋のような乾いた透明さでもなく、まさにそれは、生命が生まれ出るにはちょうど良い、そんな穏(おだ)やかで優し気な空気の「色」なのである。 冬の閉じた薄青色のほのかな明るさが、春のまばゆいばかりのシロ色の世界へと移ってゆく。 |
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