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だから僕には、現実のなにもかもが透き通って見えてきたのである。タブーと戒めの、向こう側の世界が見えてきたのである。果てしなく届かないものと思っていたもの、別世界のものに過ぎなかったもの、あり得ないものと思っていたものが、僕のすぐに手の届く、目の前の現実の世界にあると思えたのである。実際、そのように見えたのである。 しかしそれは、やはり、現実にあってはならないことなのであって、やはり僕にとってみれば、幻に過ぎなかったのである。 かつてぼくが彼女の中に求め、願い、そして祈り続けていたものは、いまとなってしまっては、ただの過去の思い出となってしまった。僕から見るといまのK夫人は、まったく別人のように見えてしまう。 彼女は変わった。なにもかも、彼女は完全に心を閉ざしてしまったのだ。彼女は心の中にバリケードを築いて、完全にシャッターを閉めてしまったのだ。いまとなっては、ぼくは、彼女の心の中になにも見ることが出来なくなってしまったのだ。 |
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