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僕には、彼女の心が見えなくなってしまた。見えるのは、彼女の外見(がいけん)と世間体だけである。彼女自身といったものが、どこかへ行ってしまった。僕にはもう、彼女が見えない。彼女のすがたカタチは見えても、彼女の心といったものが、どこにも見えなくなってしまった。 彼女が消えた。いまぼくの目に見えるのは、彼女の抜け殻(ぬけがら)だけである。これではいったい何の意味があるのだろう。これはイミテーションで、偽りと妄想の世界、カタチだけがあって中身がカラッポの偽りの世界ではないか。 やはりぼくが彼女に見ていたのは、夢か幻に過ぎなかったのだ。まったく、ぼくは彼女を見てもなにも感じなくなってしまった。彼女のなかに何も見えなくなってしまったのだ。 そして後に残るのは、カタチだけの自動化された世間話だけだ。白々しい、当たり障りのない、定形化し、マニュアル化された外交辞令だけだ。それとか、コケのはえたような、所帯じみた生活の話しとか・・・、まったくウンザリだ。夢も希望もあるものか。いったい何が面白いものか。 中身がカラッポのニセモノだけの世界ではないか。これでは心がもたない、死んでしまう。窒息し、生き埋めにされてしまう。本人も気づかないままゾンビ化してしまう。 |
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