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<夏> 光のコントラストも違う。夏のコントラストは「もの」と「もの」とのあいだの境界線が暗く太く感じられて、それが景色の輪郭線を一層際立たせている。物体は濡れると表面の色が濃くなり、また周りの空気に湿気が多いとそれだけで景色自体が少し色濃くなる。こうしたことがまた、物と物の境界線を太く濃い目立つものにしている。 コントラストが強烈なだけ、陰影のカゲの部分が暗くつぶされてめだつのである。他方、明るい部分もまた、まぶしく潰(つぶ)されて迫ってくる。これが人間の目の限界なのである。 だから、ものの輪郭線といったものがクッキリと浮かんできて、何か奥行きみたいなものを感じるとともに、現実的でリアルな感じがするのである。暗く太い輪郭線をがクッキリと浮かんでくるのである。限界を超えたところの向こう側の世界を見ようとしている。迫って来て、追い立てられ、そして押し出される。自分が自分の外の世界へと向かう。 これが、夏の景色のコントラスト(明暗)である。何もかもが厚かましくずうずうしく、ふてぶてしく、そしてあらわで露骨である。またそうでないと生きて行けない世界である。アクティブで顕在的、現実的で実際的・実践的、できるだけより以上に外の世界へ出て行こうとしている。そしてこれが本人にとっての生きている現実の意味なのである。またそうでないと生きて行けない世界なのである。 <春> ある意味で春の色はこれと反対である。春の背景は白なのである。だから、輪郭線は黒というよりも白であって、この白が本体を取り囲こみ包んで浮かび上がらせている。まるで光の中から出てきたように。周りを包む空気の色が水蒸気で白っぽいのである。これが春カスミでもある。乱反射を繰り返す大気の白さ、この白い大気の光の中から景色が浮かんで見えてくるのである。 外面が周りの空気に溶けて消えて行って、景色の内面といったものが、ありのままの無邪気というか、なんのためらいも警戒心もなく、あらわに映し出されている。おだやかで、優しく、柔らかくて、すっと溶けてしまいそうな、そうした、うららかな陽気の世界である。おだやかで優し気な誰に対しても親しい世界である。まるでひな鳥が卵から出て、初めて外の世界を見るようなそんな世界である。 |
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